教育、学び、そして学校

提供: 有限会社 工房 知の匠

文責: 技術顧問 大場 充

公開: 2024年1月30日

更新: 2024年4月24日

目的とねらい

2017年頃から、日本国内では、小中学校の不登校児童・生徒が社会的な問題と認識されるようになってきました。特に、2022年には、文部科学省の調べでは、小中学校での不登校の児童・生徒数が、約30万人に達したとされています。これは、省が゜小学生の場合、全体の約3.2パーセントに相当しています。つまり、小学校の1クラスが30人学級であれば、1クラスに1人程度の不登校児童がいることになります。このような状況は、15年前までは、全くありませんでした。小学校教員の先生たちにとっても、どのような対応をしたら良いのかが、全く分からない状態のようです。専門家は、明治時代に確立された、日本の小学校教育制度が機能しなくなったためであると指摘しています。

なぜ、日本では「小中学生の不登校が社会的な問題だ」と言われているのでしょうか。それは、20世紀の世界における日本社会の発展が、日本社会における初等・中等教育の水準の高さによって支えられていたとする共通の認識があるからです。つまり、初等・中等教育の水準が低下すると、20年後の日本社会は、その「発展が停滞するだろう」と思われるからです。それでなくても、日本社会は人口が少しずつ減っおり、人口減少が進む社会が、発展した例はありません。そのような社会の停滞を食い止めるためには、日本社会の「経済力を維持し、社会を発展させるしかない」と考えられているからです。教育水準が高いとされている西洋の国々でも、人口減少は問題になっています。日本社会では、さらに、初等・中等教育の水準も低下しているのです。それでは、日本社会に「明るい未来」は、望めないのです。

19世紀以降、先進諸国では、「国力を増強するため」、経済の振興と義務教育の向上に努めてきました。強い軍隊を作るためにも、経済を発展させるためにも、高い知識を持った、数多くの国民が必要だからです。そのような目的から、近代の先進諸国では、義務教育制度が導入され、初等・中等教育の充実が図られました。このため、各国の政府は、全ての国民が知っていなければならないこと、できなければならないこと、などを詳細に定めて、それらを教えられる人材を育成し、政府が建設した学校に配置しました。日本の明治政府も、西洋諸国にならって、各科目の教科書を作り、各地に小学校を建設し、全ての児童に対して、小学校に通学することを義務付けました。このことは、全ての日本人が標準語を学び、簡単な足し算や掛け算ができ、最低限の社会規範を守って生きることができる社会の建設に役立ちました。

そのような近代教育に応用された教育法は、一人の先生が、教室に集まっている全ての生徒に対して、教科書の内容を説明し、全ての生徒が教科書に書かれている問題に対して、教科書で「正しい」とする解答を答えられるように訓練する方法でした。生徒の中には、問題に対して、「正しい」とされる答えを導き出すためには、何を根拠に、他の必要な知識をどのように組み合わせれば良いかを見つけ出して、答えを出せる児童もいれば、教科書に書かれている問題と、それに似た問題を記憶の中から見つけ出して、その問題に対する答えを参考にして、正しそうな答えを作り出す児童もいます。先生から見れば、どちらの児童も、「正しい」とされている答えを導き出した児童であり、区別はできません。しかし、教育の目的から言えば、この両者には大きな違いがあります。明治以来の日本の教育制度の中では、この2つの答えの導き出し方を区別することはありませんでしてた。、

しかし、先生の中には、特定の児童が、どのようにしてその答えに行き着いたのかを分析し、その思考の筋道を問題にする先生もいます。そのような先生の教えを受けた児童の中には、その後の人生で、その思考力を使って、成功した人もいるでしょう。しかし、そのような思考の筋道を気にしない先生の教えを受けた生徒には、「考えの筋道」の大切さに気付く機会は与えられません。そのような児童にとっては、憶えることが、正しい答えにたどり着くための唯一の方法になります。21世紀の世界では、全ての問題が複雑になり、問題を解くことが極端に難しくなっています。そして、多くの仕事が、問題を解くことが必要なものになっています。その意味で、既に解かれた問題の答えを記憶しても、21世紀の社会では、仕事はできないのです。日本の明治以来の教育制度は、この新しい社会の必要性に対応できる人材を育成できる可能性が低くなっているのです。

現在の日本の小学校で報告されている問題の多くは、このような従来の標準的な教育法が、現実の問題解決に効率的でなくなった現実が影響していると思われます。それは、明治時代に小学生が記憶しなければならなかった「問題と解答の量」に比較すると、現代の小学生が記憶しなければならない知識の量が、爆発的に増えているからです。教育現場で、先生たちは決められた時間の枠の中で、普通の小学生の能力を越えた量の情報を記憶させなければならないのですが、先生たちには、生徒たちの生活指導を含め、膨大な量の仕事が課せられているのです。教育方法を変えれば、状況は改善できるかも知れません。しかし、先生方には、新しい教育方法を学び、現場で適するために必要な準備をするための時間的な余裕が与えられていないのです。

ここでは、日本社会における初等・中等教育の問題を考え、その解決策を模索し、新しい時代に必要な初等・中等教育のあり方を議論したいと思います。

目次

この記事の構成は、以下の通りです。

第1章 はじめに
日本社会が直面する教育の問題
(2024年2月8日更新)

第2章 陳腐化している日本の教育制度
近代日本社会の教育制度(1) 〜 江戸時代から明治維新
(2024年2月18日更新)
近代日本社会の教育制度(2) 〜 教育勅語から終戦まで
(2024年2月25日更新)
近代日本社会の教育制度(3) 〜 終戦から平成まで
(2024年3月9日更新)
ヨーロッパ社会の教育 〜 ドイツ、フランス、米国などの例
(2024年3月20日更新)
21世紀の教育で何を学ぶか 〜 経済開発機構の勧告
(2024年3月22日更新)

第3章 日本の初等・中等教育の問題
急増する不登校生徒
(2024年3月28日更新)
過激化するいじめ
(2024年3月31日更新)
進学競争、格差拡大、そして少子化
(2024年4月6日更新)

第4章 何のための教育か
教育の目的
(2024年4月9日更新)
学びの目的
(2024年4月22日更新)
個人の目的と国家の制度の矛盾
(2024年4月24日更新)


第5章 何を変えなければならないのか
教育方法の改革
(2024年2月xx日更新)
教育効果の測定法の改善
(2024年2月xx日更新)
教育制度の変革
(2024年2月xx日更新)
日本社会の責任
(2024年2月xx日更新)

第6章 良い学びと豊かな社会の実現
良い学びのための教育
(2024年2月xx日更新)
豊かな社会を実現する教育制度
(2024年2月xx日更新)
おわりに: 教育行政の課題
(2024年2月xx日更新)